東京高等裁判所 昭和48年(う)1373号 判決
被告人 森本進一郎 外二名
〔抄 録〕
(1) 所論は、原判決は、原判示第二の一の所為につき覚せい剤取締法四一条の二(四一条一項一号、一三条)刑法六〇条を適用して輸入の罪を認めているが、覚せい剤は東京税関羽田支署旅具検査場で発見され押収されており、いまだ流通可能な状態に至らなかったから、未遂の法条を適用すべきであると主張する。よって考えるに、覚せい剤取締法一三条によれば、何人も覚せい剤を我国に輸入することを禁止している。このように輸入を禁止されている貨物を法規に違反して不正に輸入しようとする場合には、通常正当な通関手続をとることは期待できないから、たとえ保税地域内であっても、我国に陸揚された以上は覚せい剤取締法にいう輸入の既遂に達するものと認めるのが相当である。原判決に所論の覚せい剤取締法の解釈適用を誤った違法はなく、論旨は理由がない。
(2) つぎに、所論は、原判決は、原判示第二の二の所為につき、無許可輸入未遂および関税逋脱未遂の各罪が成立するとしてその法条を適用しているが、覚せい剤のように法律で輸入の禁止されている貨物については、正規の申告をしても輸入許可がありえないし、また輸入許可がありえない以上課税も論理的には予定されていないというべきである。従って覚せい剤のような輸入禁止品の輸入の場合には、関税法一一一条の無許可輸入罪も同法一一〇条の関税逋脱罪も成立しないと主張する。よって考えてみるに、絶対に輸入が禁止されていて、輸入の許可を受けることのできない覚せい剤について、関税法一一一条の無許可輸入の罪の成立を認めることは、たしかに問題がある。しかし、関税法は、関税収入の確保と共に一切の貨物の輸出および輸入に関する規制を目的とする。そしてその規制手段として、貨物の輸出および輸入については、すべて所定の事項を税関長に申告し、必要な検査を経て、その許可を受けなければならないことを定めた。即ち関税法は、一切の輸出入貨物は必ず税関という関門を通し、そこでこれを点検し、貨物の不法な輸出または輸入を阻止することとしたのである。その対象となる貨物のいかなるものであるかを問わず、他の法令によって、輸出または輸入の禁止されている貨物といえども、その規制を免れるものではない。従って、この関税法の建前からすれば、覚せい剤についても同法一一一条の無許可輸出入罪は成立するものと解しなければならない(関税定率法二一条一項に掲げるいわゆる禁制品について、関税法が一一一条とは別に一〇九条の罰則を定めたのは、これらの貨物については、その性質上その輸入を特に重く処罰する必要を認めたからであり、覚せい剤についてはその必要を認めず、一一一条の罰則をもって足るとしたものと解される)。
(三井 石崎 杉山忠)